アメリカで感じたボトムアップの弊害
日本とアメリカそれぞれの金融企業に勤めて感じたのは「アメリカ企業は日本企業に比べて圧倒的にボトムアップ」ということです。その上で、アメリカ型のボトムアップが素晴らしい!、、ということではなく、むしろ日本型のトップダウンの方が組織のあるべき形に近いのでは?というのが、アメリカでの学びの一つでした。
こういうのって企業や業界によっても違いますし、企業のどの部分を切り取るかで変わるとは思いますが、、1年半のアメリカ駐在で感じたことについてまとめてみたいと思います。
日本とアメリカの違い
アメリカで感じたのは「アメリカ企業はボトムアップ、日本企業はトップダウン」ということでした。
日本企業って(少なくとも大企業では)、各チームのやることは部長や課長間の話し合いで決まっていて、マネージャー以下層は、その課長部長間で決まった計画に沿って業務を進めます。一方、アメリカでは各チームの持つ裁量が日本よりも大きくて、上から計画が降りてくるというよりも、自チームで計画の策定からその実行までの責任を負っています。
例えば、チーム横断でのプロジェクト開発を例に考えると、日本の場合「①どのチームから何人配属するか」が部長課長層で決まっていて「②その枠内で誰を選抜するか」が各チームの裁量に任されるケースが多いと思います。
一方アメリカでは、①の部長課長間での決定というのがそもそもあまりなくて、通常PMO(Project Management Office)というプロジェクト進行を担当するチームが中心になって、どういうメンバー構成で進めるかを“チーム間で”決定します。そのため、チームによっては「社内向けのRM(Relationship Manager)」がいて、どのチームとコラボレートできるか検討し、他チームとコミュニケーションをとり協業を進める役割があったりします。日本で社内向けのRMって聞いたことがなかったのでとても新鮮に感じたのを覚えています。
ちなみに若干話が逸れますが、、トップダウン・ボトムアップ以外の大きな違いにアメリカ企業のフラットな構造(横長)があります。日本だとマネジャーが持つ部下って大体3名、4名のことが多いですが、アメリカでは7名とか8名が一般的です。アメリカ企業のマネージャーは日本以上に多くの部下を抱えており、裁量が大きく、年功序列で年数が経てば誰でも昇進できる日本とは大きく組織構造が異なります。
(横長なアメリカ企業と、縦長な日本企業)
ボトムアップの弊害
なんとなく世の中的には「ボトムアップの方が素晴らしい」的な雰囲気があるような気がしますが、実際アメリカ企業で働いて感じたのは「いやいや、日本型のトップダウンの方が効率的で組織としては強い」ということでした。
というのも、例えば先ほど書いたRMが必要なのってボトムアップの弊害の一つで、日本ではトップダウン的にどのチームが何を担当するかが決まるので、チーム間でどう協業するかを各チームが考える必要がなく、RM的な役割を配置する必要がありません。
一見ボトムアップの方がチームの裁量が大きく働きがいがありそうですが、組織として見るとRMの立場に人材を配置するコストが余分にかかっており効率的とは言えません。
RMの他にも、例えば自チームのサービスを説明する「社内向けのカタログ」をそれぞれのチームが持っていたります。ボトムアップ構造ではトップダウンに比べて各チームが他チームと協業するための労力、コストが多くかかってしまいます。
その他にも、クロスセルやMDMという点でもボトムアップには弱みがあります。
クロスセルとは要は重ね売りのことで、ある商品購入を検討している顧客に、別の自社商品もセットで販売することを指します。ボトムアップでは商品ごとに異なるチームが担当している場合、顧客情報を共有してクロスセルを推進するのがトップダウンに比べて難しくなります。
MDM(Master Data Management)とは企業内で顧客情報を管理、統合することでデータ分析等を促進することですが、このデータ管理という点においても、ボトムアップでは各チームで異なるシステムを使用していたりして煩雑になりがちですが、トップダウンでは上層部が全体としての最適性を見た上で配置するシステムを決定するため、システムやデータの整合性が保たれやすいです。
実際に派遣元の日本企業と派遣先のアメリカ企業を比較すると、クロスセルやMDMを含め「効率性」という点では日本企業の方が優れている、というのが駐在で実感したことでした。
欧米ではオペレーション効率が研ぎ澄まされた状態のことをOE(Operational Excellence)と呼び、企業の持続的な繁栄のためには不可欠な要素と考えられていますが、OEという視点で考えるとアメリカ型のボトムアップよりも日本型のトップダウンの方が優れていると言えます。
最後に
スピードや創造性が必要な業界(エンタメ等)など例外はあるかもしれないが、基本的にはトップダウンでのマネジメントが効率性の向上、OEの実現のためには必要ではないかなと思っています。
トップダウンで作った枠組み中で自由や裁量を与えることで従業員はモチベーション高く働くことができ、ボトムアップの良さも吸収できるはずです。
一方で日本企業に足りないのは「透明性」ですね、、行き過ぎたヒエラルキー構造や忖度の文化によって、部下が上司に意見できなかったり「出る杭は打たれる」空気が蔓延していて、それが足かせになっているようにも感じます。
「透明性の高いトップダウン」これが組織として目指すべき一つの形かなと思います。